 ……あら、ごきげんよう。あなたに気に入ってもらえる物語はあるかしら？
 どうぞ、見ていってくださいな。

貴方のための。

猫は、私が悲しんでいることがわかるようで、いつも酷く美しい、鈴の音のような歌を歌った。
彼らの歌の独特な拍子や音の上下は（歌詞はよく分からなかった）私を心地よい微睡みへ誘った。

その猫──彼女は（身のこなしからして、適当な性別を言っただけであって、まさか、確認してみた訳では決して無い）日暮れになると迎えに来た召使いに手を引かれ、落ちきる前の日の向こうへ帰って行った。何度も、チラチラと私を振り返りながら。

私は、いつだって彼女の後を追って、あの赤い赤い夕日に溶けていってしまいたかった。

彼女の来ない日が、数日間続いた。いよいよ不審に思い始めた夕暮れ、花をくわえた何匹もの猫が列を為して、家の庭にやってきた。
美しい細身の猫を筆頭に、猫たちが縁側に花を置いていく。
私は、ただ何となく、しかし目を離すことも出来ずにそれを見ていた。

列の最後の猫が地平線の向こうに消えたとき、私は、心に大きな穴が空いたような気分になった。恐ろしくてたまらないのに、不思議と涙は出なかった。


街からは日が消えて、色のない夜がくる。
灰色の街に体を溶かして、小さく鳴いてみた。
なぉん
あの鈴の音には程遠く。私はやはり、あの日の向こうには行けないらしい。



猫の話

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貴方のための。

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